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2021.4.22.

一度きりの浮気・不貞行為は慰謝料請求可能?2回は変わる?

夫婦には貞操義務があります。「貞操」とは辞書的には、人としての正しい道を守ること、夫婦・恋人同士が相互に性的純潔を守ること、という意味ですが、法律上「貞操義務」とは、「夫婦各自が配偶者以外の異性と肉体関係を持たないこと」という意味になります。

そして、一方の配偶者が貞操義務に違反した場合、他方の配偶者は一方の配偶者に対して、民法709条により、不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。

一度きりの浮気・不貞行為は慰謝料請求可能?

それでは、一度きりの浮気でも、慰謝料請求はできるのでしょうか。

もちろん、その「浮気」の内容が「不貞行為」なのであれば、たとえ一度きりであっても、貞操義務違反として慰謝料請求は可能です。

“夫(妻)が浮気をしたから慰謝料を請求したい、その浮気相手にも慰謝料を請求したい”という相談をお聞きすることはありますが、「浮気」の内容を聞くと、まれに、“私に内緒で食事に行った”とか、“こそこそ仲の良さそうなLINEをしている”とかで、それ以上の交際関係や肉体関係になったわけではない、ということがあります。

確かに、夫(妻)が、自分以外の異性と、自分に内緒で食事に行っていることが分かれば、内心穏やかでいられないと思います。

しかし、慰謝料請求ができるのは、あくまで貞操義務違反の場合であり、2人で食事やこそこそと仲良さげなLINEだけでは、貞操義務違反と評価することはできないので、慰謝料請求することはできません。

一度きりの浮気・不貞行為の慰謝料相場

不貞行為「1回」の場合の慰謝料の相場は、50万円〜200万円だと思います。不貞期間が数カ月で何度かの不貞行為がある場合と比べて、慰謝料の相場としてはやや低額になります。

慰謝料額を決める際には、不貞行為をされた側の(主観的な)精神的打撃の多寡も考慮はしますが、大事なのは客観的な側面です。具体的には「不貞期間、不貞の頻度・回数、別居・離婚に至ったか、その他その夫婦間の未成熟子の有無等」の客観的な事情を軸として慰謝料の金額が決められます。

そのため、例えば、「不貞行為が一回きりで、夫婦が別居も離婚もしていないケース」と、「2年の不貞期間中に10回の不貞行為があり、それが原因で夫婦は離婚に至ったケース」とでは、(たとえ不貞をされた側の傷ついた気持ちが同等であったとしても)慰謝料の金額は異なることになります。前者なら50万円~150万円、後者なら150万円~250万円程度の慰謝料になると思います。

浮気・不倫の回数や期間で慰謝料は変わる?

そもそも、慰謝料がどのように決められるのでしょうか。
慰謝料とは、精神的苦痛を慰謝するための金銭的な賠償です。そうすると、不貞行為をされた側の配偶者の(主観的な)苦痛の程度が大きければ大きいほど慰謝料も高額になる、と思いがちですが、実際はそうではありません。

先に述べたとおり、慰謝料の金額に大きく影響を与えるのは、客観的な側面です。つまり、「不貞期間、不貞の頻度・回数、別居・離婚に至ったか、その夫婦間の未成熟子の有無等」により、慰謝料額は決められます。

そのため、不貞行為の回数(肉体関係を持った回数)が1回~3回のケースより、8回~10回の方が慰謝料は高くなります。また、不貞期間(肉体関係を伴う男女交際の期間)が1カ月~3カ月のケースよりも、1年~2年のケースの方が慰謝料は高くなります。

さらに、その不貞行為が原因で別居や離婚にまで至ったか、という点も意味を持ちます。なぜなら、それ(不貞の発覚)までは家族全員で平穏に暮らしていた環境と比べて、別居となればその平穏な家庭環境が壊れることになり、離婚となれば築いてきた夫婦関係も全て壊れたことになり、その意味で、客観的に見て“失われるものが大きい”からです。

不貞行為の慰謝料に関する裁判例

ここでは、2つの裁判例を紹介します(※事実関係は簡略化して記載しています)。
どちらの事案も「B(妻)がA(夫)の不貞相手の女性Cに慰謝料請求」をしたものです。

<東京地裁 平成31年3月12日判決>
(事実関係の概要)
・BとAは、AとCとの不貞行為までの間では約24年間、婚姻生活を継続していた。
・AとCの不貞行為は1回である。
・上記不貞行為の関係の発覚から3年5か月後に、BはAと離婚に至っている。
・ABの間に子供はいない。

(結論)慰謝料は140万円

<東京地裁 令和2年10月7日判決>
(事実関係の概要)
・AB間に第1子が生まれて数箇月後という時期から不貞関係が始まった。
・AC間の不貞行為の期間・回数は「4箇月程度の間に、平均月2回程度」。
・ACは泊りがけの沖縄旅行に行ったこともあった。
・CはA及びBと同じ会社に勤めており、妻としてのAの存在を認識していた。
・CはBが妊娠・出産したばかりであることを知っていた。
・BはAと離婚し、Aが子供を引き取って育てている.
・BはAの不貞行為を疑い、約150万円の調査費用を投じていた(※)。
・CはBに対し一貫して謝意を示し、解決の姿勢を示していた。

(結論)慰謝料は200万円
※調査費用については、それを丸々「損害」と認めることはできないものの、慰謝料の中で一定程度は考慮されたようです。

一度きりの浮気で離婚できる?

ここまで、一度きりの不貞行為でも「慰謝料請求」ができること、いくつかのケースでの慰謝料の相場や、実際の裁判例を見てきました。
それでは、一度きりの肉体関係(不貞行為)の場合に「離婚」はできるのでしょうか。

婚姻は強い拘束力を持つ契約です。そのため、たとえ一方が離婚したいと思っていても、他方が離婚したくないと思っていれば、離婚はできません。ただし、他方が離婚したくない場合であっても、他方に「離婚原因」があれば、裁判上で離婚は認められます。

離婚原因とは、民法770条に定められています。例えば、不貞行為、暴力などです。

法律の規定上、「不貞行為」と定められているだけであり、具体的な回数についての記載はありません。また、肉体関係が一度きりであっても、それが貞操義務違反であることには違いありません。

したがって、それが一度限りの出来事であったとしても、配偶者以外の異性との間で肉体関係を持つと、それは離婚原因となり、離婚請求は認められます。

慰謝料請求するための注意点5個

最後に、不貞行為(不倫、肉体関係)を理由として慰謝料請求をする場合の注意点5つを見てみましょう。

①不貞の証拠の獲得
②別居・離婚をするか否かの方針決定
③誰に慰謝料請求するのかの選定
④破綻の抗弁
⑤消滅時効

①不貞の「証拠」の獲得

不貞行為の慰謝料請求が認められるためには、不貞の証拠があることが最重要です。

裁判上のルールとして、「立証責任」というものがあります。不貞の慰謝料請求の場面でいうならば、「不貞行為があるから慰謝料を支払え」という原告において、不貞行為の事実の存在を基礎付ける証拠を提出しなければならず、十分な証拠がなくて、裁判官が「確かに不適切な程度に親交が深いようだけれども、不貞行為の事実がある、とまでは言えない」という心証の場合、立証不十分として不貞の事実はなかったことになり、結果、原告が敗訴するというものです。

2人がラブホテルから出てくるところの写真であれば、通常、不貞の立証は可能です。しかし、異性と2人きりで食事をしている場面の写真があったとしても、それだけでは不貞の立証には不十分です。

②別居・離婚をするか否かの方針決定

先に述べたとおり、不貞の慰謝料の額は、その夫婦が「別居・離婚をしたか否か」という事情によって一定程度は増減します。また、そもそも、不貞行為が発覚した夫婦間においては、離婚をするか否かという点も、当然に話し合うべき事柄になってくると思います。

そのため、不貞行為の事実を把握し、その確たる証拠を獲得したのであれば、その次には別居するのか、ないし離婚もするのかについての方針を決定するのがいいでしょう。(但し、勿論、家庭には様々な事情があるでしょうから、必ずしも別居・離婚の方針を決定してからでないと慰謝料請求をするべきではない、ということではありません。)

③誰に慰謝料請求するのかの選定

不貞行為(肉体関係を結ぶこと)は「2人」でするものなので、慰謝料を請求する相手方はその「2人」です。

そうすると、慰謝料請求する側の選択肢としては、
①「配偶者にだけ請求する」
②「不貞相手にだけ請求する」
③「配偶者と不貞相手のどちらにも請求する」
の3パターンがあります。

①②③のうちどれを選択するのかは、請求者に離婚の意思があるのかどうかや、不貞相手に支払能力が有るのか、誰に対して一番許せない思いが強いのかなどの事情と関連すると思います。

例えば、離婚しないなら、普通は不貞相手にだけ請求する(②)のでしょうし、不貞相手が無職で支払能力がなさそうなら、配偶者にだけ請求する(①)ことになりそうです。絶対にどちらも許せず、確実に離婚もするのであれば、配偶者と不貞相手の双方に請求する(③)ことになろうかと思います。

④破綻の抗弁について

「破綻の抗弁(こうべん)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
これは、不貞の慰謝料請求をされている側からの反論で、具体的には「異性と肉体関係を持ったことは間違いないけれど、そもそも、その不貞行為の前から夫婦関係は破綻していた」という言い分です。

裁判上このような主張がなされることがあり、これを「破綻の抗弁」と言います。不貞行為の前に夫婦関係が破綻していたなら、その不貞行為を理由とする慰謝料請求は認められないことになります。

夫婦関係が破綻していたかどうかは、夫婦双方の主観的な部分ではなく、客観的・外形的な事情を重視して判断されます。例えば、不貞行為の前から夫婦は別居していたのかどうか、その不貞行為の前後で夫婦(家族)旅行に行っているか否か、睡眠・食事などの日常生活を共にしているのかどうか等の事情を総合的に考慮して「破綻」の有無を判断します。

⑤不貞の慰謝料請求の時効

不貞を理由とする慰謝料請求は、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)です。

「時効」という言葉は聞いたことがあると思いますが、不法行為の損害賠償請求権の時効の期間は「損害及び加害者を知った時から3年」です(民法724条)。不貞の慰謝料請求について言い換えれば、“不貞の事実・不貞の相手を把握した時から3年”ということができるでしょう。

配偶者の不貞行為が発覚した後には、別居するのか・離婚するのか、別居・離婚した後にどうやって生活していくか等、色々と考えるべき事柄があると思いますが、時効期間が満了して不貞の相手方から消滅時効の主張をされないよう、その点は気を付けておくべきです。

まとめ

本稿では、一度きりの不貞行為で慰謝料の請求が可能かどうか、不貞行為の回数によって慰謝料額への影響は有るのか等について、実際の裁判例を踏まえて具体的に解説しました。

不貞の慰謝料請求の場合、証拠が最重要であることは言うまでもありませんが、では一体、どのような証拠ならば立証可能な証拠なのか、これは証拠評価の問題であり、専門的な知見が必要になりますので、一度弁護士へ相談してみることをお勧めします。

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