田中・大村法律事務所

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2021.4.19.

学習塾の月謝・授業料が未払い滞納された場合の対処方法

相談内容

市内の学習塾から、「受講料や教材購入費が未払いのまま、塾を辞めた(あるときから塾に来なくなって全然連絡がつかない)生徒さんがいて、約15万円が頂けないままになっているけれども、どうすればいいか?」という相談を受けました。

辞めた当初は塾からの電話に出ており、生徒の親は分割返済の約束をしていたのですが、結局は約束を守ってくれずに、そのうち塾から連絡をしても出てもらえなくなったということのようでした。その塾は他の生徒さんも沢山いる関係で、このまま連絡がつかないまま放置するのでは他の生徒さんやその親御さんに示しがつかないため、今回、弁護士への相談に至ったという経緯でした。

解決までの道のり

まずは、未回収となっている金額の確認、内訳の整理、そして何より請求する法的根拠が有るか否かを確認しました。

学習塾では、受講料(授業料)のほか、塾がその生徒のタイプや習熟度に見合った教材を立て替えて購入して使用することもあります。そして、受講料についてはもちろんのこと、このような教材費に関して、それらの費用を生徒(の親)に負担してもらうことについての事前の合意(契約書)があることが大事なところです。

幸い、本件では、事前の合意(利用申込書への親の署名・捺印)があったので、未払金を請求する法的根拠もあり、また、当該生徒が受講した講座とその受講期間、教材費についても具体的に金額及び関係資料を正確に特定できました。

次に、未払金の支払を催告する内容証明郵便を出しました。利用申込書に住所記載があるので、その住所に発送したところ、無事に到達しました。しかし、2週間程度待っても結局返事が来ることはありませんでした。

そのため、支払督促を申し立てました。
「支払督促」とは、金銭等の請求について債権者の申立てによって、その主張から請求に理由があると認められる場合に支払督促を発する、という手続です。そして、債務者が支払督促を受け取ってから2週間以内に異議申立てをしなければ、債権者がそのあとの必要な手続を履践した上で、債務者の財産に対して強制執行をすることができるようになるものです。

要するに、「これまで支払の催告を無視していても特に不利益がなかった状態」から、「これ以上放置しておけば、預金や給与などの財産を強制執行されてしまうかもしれない状況」に進めた、ということです。

これにより、その生徒の親は対応せざるを得なくなりました。そして、その生徒の親が「月々@万円の分割払いなら可能です」という趣旨で異議申立てをしてきたため、最終的に、通常訴訟の中で、分割払いの和解が成立しました(現状、滞りなく約束どおりに分割払いが続けられていますが、万が一、支払いが滞れば、和解調書に基づいて強制執行をすることが可能です。)。

解決のポイント

本件の解決に至るポイントは、以下のとおりです。

①利用申込書へのサインがあり、未払金を請求する法的根拠があったこと。
⇒もし、利用申込書(等の契約に関する文書)へのサインがない場合、万が一、生徒(親)が「そもそもそちらの塾で受講をしていません。」、「受講はしましたが、その金額は知らされていませんでした。」、「教材費が請求されるとは聞かされていませんでした」等の対応をされた場合に、訴訟段階で、「立証が不十分」として塾側の主張が認められなくなる可能性があります。

②相手にとって放置したままではデメリットのある状況にしたこと。
(=支払督促を申し立てたこと)
⇒未払いのまま放置する人にとっては、そのまま放置していても特段の不利益がなければ、なかなか現状を変えよう(未払を完済してしまおう)という心境にならないものです。塾側としては、催告を何度か繰り返しても相手の応答がない場合は、できるだけ早く法的手段をとることが、速やかな解決に繋がると思います。

月謝の滞納分を回収するときの注意点

内容証明郵便の送付や、今回したような支払督促だけならば、そこまで多くの費用や時間はかかりません。しかし、それだけでは解決せず、通常の民事訴訟を提起したり、その後に強制執行をしたりするとなると比較的専門的な手続を進める必要があり、そうなるとその塾の負担はそれなりに大きくなります。

ケースによっては、未回収の受講料等を超える弁護士費用・手続費用が必要となる場合もあります。そのため、実際に回収を検討する際には、本当にその方法が効果的なのかどうか、かける費用・時間が回収しようとする金額に見合っているのかどうか(費用対効果)を検討することが大切です。

また、学習塾という「教育」を事業とする性質上、考慮せねばならないこともあります。厳しい取立て、裁判、強制執行をするとなると、ともすれば、学習塾と滞納をしている家庭だけの問題にはとどまらず、その塾に通っている生徒や親、その生徒や親の近所、その生徒が通う学校にも情報が広がってしまう可能性もあります。その点を最大限ケアして、できるだけ穏当に解決するよう進める必要があると思います。

まとめ

本件は、比較的、塾の負担が少なく解決に至った事案です。
しかし、本来的には、未回収金など発生しなければ時間的・経済的負担なく円滑に塾経営だけに専念することができましたし、そのような状態こそが一番健全です。

経営者としては、今回の相談のような問題(ロス)を未然に防ぐことが肝要です。具体的に言えば、クレジットカード決済や、口座振替(指定口座からの自動引き落とし)を導入することが効果的だと思います。特に口座振替ならば、導入が容易ですし、何より、塾側としても毎月の回収事務の手間を減らすことができ、生徒(親)側としても毎月の支払の煩雑さを回避することができます。

それでもなお、未回収金が発生してしまった場合には、お気軽に弁護士にご相談下さい。

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