田中・大村法律事務所

電話番号:079-284-0505

ブログblog

2020.5.6.

駐車場事故発生後の対応方法と過失割合・示談交渉を弁護士が解説

日本損害保険協会の調査によれば、車両事故のうち、約30%が駐車場で発生しているというデータもあります。

駐車場事故が多発する原因の一つとして、自動車の性能の向上が挙げられると思います。つまり、最近の車にはバックモニターが付いているため、運転者が体を反らして後部を目視確認せずとも、車両の後方をある程度把握できるようになっています。

しかし、映る範囲に死角はありますので、後方の十分な安全確認をするには、バックモニターの映像に頼るだけではなく、実際に目視確認することが必要です。

当事務所で相談を聞いていても、直接の目視確認を怠ったために、駐車場事故が発生したと思われるケースが少なくありません。また、駐車場事故では、駐車場という場所の特性から、過失割合が争点となることが多いです。

本稿では、駐車場事故の特徴や、事故の際に取るべき行動などを解説していきます。

駐車場事故は交通事故?

「交通事故」とは、道路交通法第2条第1項第1号に規定する「道路」において、車両等及び列車の交通によって起こされた事故で、人の死亡又は負傷を伴うもの(人身事故)並びに物損事故のことを言います。

Cf 道路交通法第2条1項1号
道路法二条第一項に規定する道路、道路運送法第二条第八項に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所をいう。

つまり、道路には、「道路法2条1項に規定する道路」、「道路運送法2条8項に規定する自動車道」、及び「一般交通の用に供するその他の場所」の3種類があるということです。前二者はいわゆる「公道」といわれるものです。これに対し、「一般交通の用に供するその他の場所」には私有地も含まれます。

「一般交通の用に供するその他の場所」は、具体的にはどのようなものでしょうか。

裁判例では、「一般交通の用に供するその他の場所とは、不特定多数の人や車両が自由に通行できる場所として供され、現に不特定多数の人や車両が自由に通行している場所を意味すると解される」(大阪高裁平成14年10月23日判決)とされました。これによれば、ある場所が「一般交通の用に供するその他の場所」に該当するか否か(つまり、道路交通法の適用があるか否か)は、「不特定多数の人や車両が自由に通行できる場所」かどうかによって決まることになります。

具体的なケースを見てみましょう。

・「ラーメン店の駐車場」→「道路」に該当する。(大阪高裁平成14年10月23日判決)
・「コンビニ店舗の駐車場」→「道路」に該当する。(東京高裁平成13年6月12日判決)
・「月極駐車場」→「道路」に該当しない(東京高裁平成14年10月21日判決)

月極駐車場は、通常、特定人(契約者)の利用のみを想定しているので、「道路」に該当しないとの判断になったようです。多くの駐車場事故は、ショッピングモールや大型スーパーやコンビニ等で起こっており、これら施設は「不特定多数の人や車両が自由に通移行できる場所」なので「道路」に該当し、「交通事故」という取扱いになります。

駐車場事故で自動車保険(任意保険)は適用されるのか?

道路交通法の適用を受ける駐車場事故

「交通事故」として扱われるため、警察への届出を経て交通事故証明書が発行されます。そして、それが人身事故であれば自賠責保険及び任意保険の適用となり、物損事故であれば任意保険の適用のみとなります。

道路交通法の適用のない駐車場事故(例:月極駐車場内の事故)

「交通事故」として扱われません。そのため、保険請求時に必要とされる交通事故証明書は発行されません。しかし、被害者が死傷するような人身事故の場合、自賠責保険の対象になります。

任意保険は、私有地での事故に対する補償の有無は、契約の内容によります。契約内容や事故の状況によっては補償の対象外となる場合もありますので、ご自身の任意保険の契約内容をしっかりと確認されることをお勧めします。

駐車場事故発生後に取るべき対応5つ

事故が発生すると、突然のことでパニックに陥ってしまうことが多いです。事故にあって混乱している時でもきちんと冷静な対応ができるように、今ここで手順を確認しておきましょう。

①負傷者の救護と道路上の危険の除去

事故発生後、ただちに車の運転をやめ、被害状況を確認しましょう。負傷者がいる場合は、すぐに救護を始め、必要がならば救急車を手配しましょう。自分が動けない場合には同乗者や現場に居合わせた人に助けを求め、救急車を呼んでもらいましょう。

また、事故が続発しないよう、事故車両を安全な場所へ移動させたり、周りに事故の発生を知らせたりなど、交通の危険を除去するための措置をとりましょう。

②警察への事故報告

負傷者の救護、道路上の危険の除去するための措置が終わったら、警察へ連絡しましょう。警察への連絡は加害者が行うことが多いですが、加害・被害の差が明確でない場合もあり、連絡するゆとりのある方が連絡をするようにしましょう。

③事故状況等の確認

自身が負傷で動けない場合でなければ、余裕があれば自身でできる限り、事故状況の確認や記録をしておくとよいでしょう。例えば、事故発生の「場所」、衝突時の車の「位置関係」、双方車両の「スピード」などです。これらは後々、証拠として使えることがあります。

なお、その場で、当事者同士の話し合いで解決することは避けるべきです。事故の相手とのやり取りとしては、相手の身元・ナンバープレートを把握して、連絡先を交換する程度で十分です。

④保険会社への連絡

警察への連絡が終われば、次は保険会社に連絡をしましょう。加害者であれば被害者への賠償のために、保険会社への連絡が必要となります。被害者側も、自身の保険会社へ報告をしましょう。基本的には保険会社の指示に従って、事故状況、自分の車、相手方、負傷者の情報等を正確に伝えましょう。

⑤証拠の保全・確保

裁判でも示談交渉でも証拠が重要です。特に「客観的な証拠」は、一番強い力を持ちます。客観的な証拠とは“人的・主観的な要素の入り込まない証拠”です。

代表的なものとしては、防犯カメラ映像やドライブレコーダー映像です。コンビニや店舗の駐車場には、防犯カメラが備え付けられているところがあります。場合によっては、店内に設置されている防犯カメラに、店外(駐車場)の事故の様子が映り込んでいることもあるでしょう。駐車場事故の際には、これらの証拠を確保しておくことが重要になります。

なお、事故当事者と利害関係のない第三者の目撃証言も有力な証拠になりますので、もし目撃者がいたならば、連絡先を交換して、後々の協力をお願いしておくことをお勧めします。

駐車場事故の特徴

さきに紹介したように、車両事故のうち、約30%が駐車場で発生しているというデータもあります。駐車場事故の特徴としては、以下のものが挙げられます。

過失割合の判断が困難

駐車場内では、運転手が乗った車が駐車できる場所を探していたり、駐車スペースに進入または退出したりするため、車両は一般道路上の時に比べて不規則な動きをします。また、原則として、駐車場内には標識や信号などもありません。

そのため、駐車場での交通事故は、道路交通法の規制に従った運転だったからといって、必ずしも道路での交通事故と同様に考えて過失割合を決めることが妥当でない場合もあります。したがって、駐車場事故では過失割合を決めることが難しい場合が多いです。

加害者特定が困難なことがある

駐車場における交通事故のうち、駐車中に車両に当て逃げされた場合、加害者がなかなか見つからない場合が多いです。

もし当てられたことが発覚した場合には、すぐに警察を呼んで事故発生の事実を固定化してもらうことが必要ですし、事後的に分かった場合には、すぐには諦めることなく、店舗の防犯カメラ映像に当て逃げの瞬間が記録されていないかなどを確認してもらうべきです。

賠償請求が困難なことがある

仮に加害者(事故の相手方)が判明している場合でも、当て逃げのような物損事故ならば、賠償額がさほど高額にはなりません。そうすると、加害者特定とその後の賠償請求に向けて、弁護士費用を費やして本格的に動くことを躊躇することにもなり、事実上、賠償請求が困難になることが多いです。
(※自身の任意保険に弁護士費用特約が付いていれば、弁護士に任せることをためらう必要はなくなります。)

駐車場事故の主な原因・防止のポイント

駐車場事故の原因は、大きく2つに分けられます。「場所的要因」と「人為的要因」です。

場所的要因とは、駐車場という場所では、交差道路相互の優劣がないことが多いことや、車両が不規則な動きをすることや、同時に歩行者も存在することなどです。要するに、場所の性質として、“他車(他者)の動きが予測しづらい”ということです。

人為的要因とは、いわゆるヒューマンエラーです。場所の性質を変えることはできませんので、事故を減らすには、ヒューマンエラーを減らすこと、これに尽きます。

ヒューマンエラーの主なエラーの内容は、以下のとおりです。
・駐車スペースを探すことに集中しすぎ、周囲の人や車の動向を把握しないまま運転
・後方確認に注意するあまり、左右の確認が不十分になる
・バックの駐車が苦手で安全確認をする余裕がない
・空いているスペースに早く駐車したいと焦るあまり、スピードが速くなる
・いつも使う駐車場なので“慣れ”が安全確認不足に繋がる
・公道よりも自車・他車ともに速度が遅いので安全だと思い込んでいる
・看板やゲートなどの構造物への注意がおろそかになる

このような内容を予め頭に入れておくことが、事故の防止に繋がることと思います。

駐車場事故の事例5つと過失割合

近年は、駐車場内の一部の事故の態様につき、「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂5版)」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)にて、解決指針が公表されましたが、まだまだ不明確な部分も多いのが現状です。そのため、駐車場事故では、過失割合で揉めることが少なくありません。 

以下では、5つのケースを取り上げてみます。

①通路交差部分での四輪車同士(赤・青)の出合い頭事故

上記のケースは、直進・右左折の区別なく、駐車場の交差部分に進入した四輪車同士が出合い頭に衝突した場合を想定しています。

この場合の基本の過失割合は、「赤50:青50」とされています。

理由は、駐車場内の交差部分では、道路交通法36条における“左方優先の原則”は妥当せず、双方が同程度の注意義務を負うものとされているからです。なお、「赤側が狭路/青側が明らかに広い道路」、「青が丁字路直進」、及び「一時停止・通行表示等違反」などの個別具体的な事情は、修正要素と考慮されることになります。

②通路進行車(四輪車:赤)と駐車区画退出車(四輪車:青)の事故

上記ケースでは、基本の過失割合は、「赤30:青70」とされています。

理由は、青車両は「停止~発進」であり、進行中の赤車両との比較では、周囲の状況の把握がしやすいため、より重い注意義務を課されるからです。※赤車両と青車両の、前進・後退の別は問いません。

なお、「指示器が出されていたか否か」や、「進行又は発進の速度」などの個別具体的な事情は、修正要素として考慮されることになります。

③通路進行車(四輪車:赤)と駐車区画進入車(四輪車:青)の事故

上記ケースでは、基本の過失割合は、「赤80:青20」とされています。

理由は、赤車両は前方進行中であり、後退中の青車両との比較では、周囲の状況(青車両の駐車区画への進入動作)を把握がしやすいために、より重い注意義務を課されるからです。赤車両から見て、青車両のハザードランプ・方向指示器・後退灯の点灯や車両の向き等により、当該駐車区画のある程度手前の位置において、青車両の後退動作が客観的に認識し得る状態至っていたことが前提となります。
※赤車両と青車両の、前進・後退の別は問いません。通路の幅員も問いません。

なお、「赤車両が徐行していたか否か」などの個別具体的な事情は、修正要素として考慮されることになります。

④駐車区画内における事故(歩行者・四輪車)

駐車場の駐車区画内で歩行者と四輪車が衝突した場合を想定しています。上記ケースでは、基本の過失割合は「四輪車90:歩行者10」とされています。

理由は、駐車区画内は人の往来を常に予見すべき場所であり、駐車区画を出入りする四輪車としては高度の注意義務が課される一方、駐車場は四輪車の往来が常に予見される場所であり、歩行者にも相応の注意義務が課されるためです。

なお、「隣接区画での乗降があった場合」や、「歩行者が幼児・児童・高齢者であった場合」などの個別具体的な事情は、修正要素として考慮されることになります。

⑤通路上における事故(歩行者・四輪車)

駐車場の通路上で歩行者と四輪車が衝突した場合を想定しています。上記ケースでは、基本の過失割合は「四輪車90:歩行者10」とされています。

理由は、駐車場内の通路は人の往来を常に予見すべき場所であり、通路を進行する四輪車としては高度の注意義務が課される一方、駐車場は四輪車の往来が常に予見される場所であり、歩行者にも進路の安全を確認する注意義務が課されるためです。

なお、「歩行者に急な飛出しがあった場合」、「歩行者が幼児・児童・高齢者であった場合」、「歩行者用通路標識上であった場合」などの個別具体的な事情は、修正要素として考慮されることになります。

駐車場事故の示談交渉の流れ

駐車場事故と公道での一般的な事故とで、示談交渉の流れは同じです。

交通事故の示談交渉は、基本的には、「損害」が確定し、「過失割合」が決まれば、示談が成立します。

駐車場事故の場合、幸いケガはなく、物損だけというケースが多いと思います。その場合、修理費用(全損の場合、車両時価額)を確定することになります。他に、「レンタカー代」や「レッカー代」が発生することもあります。

過失割合の話は、できる限り、損害額の確定と同時並行で進めます。相手方(保険会社)との間で、損害額及び過失割合で合意を形成することができれば示談成立となり、できなければ最終的には裁判での解決となります。

まとめ

今回は駐車場での事故について、公道での事故との違いや、事故にあった時に必要な対応などをご紹介しました。駐車場に着いて油断している時や、駐車に手間取って焦っている時など、駐車場でつい注意を緩めたときに事故を起こしてしまったり、事故の被害者になってしまったりすることはあります。

駐車場事故を起こさず、或いは事故に巻き込まれないに越したことはありませんが、もし事故が発生したとしても、落ち着いて今回紹介したような手順を思い出し、冷静に対処するようにしましょう。

また、駐車場事故の過失割合が争点となった場合は、迷うことなく、ぜひ一度、弁護士に相談することをお勧めします。

この記事をシェアする