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2020.4.21.

養育費の不払い法改正2020年施行!強制執行しやすい?

離婚後の子どもの養育にかかる費用は、親権者だけでなく離婚した相手も負担する義務があります。

ところが、実際は養育費の取り決めをしても支払いが滞り、経済的苦境にたたされるひとり親家庭が少なくありません。そのような養育費の不払いに悩む方が多い中で、「改正民事執行法」が令和元年5月10日に成立しました。

なお、今回の改正は、令和2年4月1日から施行されます。

本稿では、民事執行法の改正によって、養育費の不払いへの対応方法がどのように変わるのかを解説していきたいと思います。

養育費不払いの理由と割合

養育費が支払われなくなる原因は、大まかに分ければ、「支払能力」の問題「支払意思」の問題、この2つに分類することができます。

支払能力の問題とは、そもそも収入がないので支払えない、不景気で収入が減少したので支払えない、住宅ローン等の支払いがあるために養育費の支払いまで手が回らない等です。他方、「支払意思の問題」とは、子供と会えていないのだから支払いたくない、相手の行動が原因で離婚したのだから支払いたくない、再婚して新たに家族ができたので支払いたくない等です。

また、支払わない理由には、支払能力・支払意思の欠如の他にも、父母間の葛藤の激しさが原因と推認されるものもあるようです。そのほか、支払義務者の連絡先不明により養育費を請求することができない、あるいは、親権者が子を元配偶者に会わせたくないから養育費を請求しないというような、養育費の確保を一層困難にさせる状況もあります。

いずれにせよ、養育費とは、未成年の子供が親に対して生活費や教育費用を請求する権利であって、保障されるべき要請が強いものですから、その支払義務から免れたり、或いは、軽減されたりするためには、それ相応の特別な事情が必要になることは言うまでもありません。

しかし、厚生労働省の調査によれば、実際に養育費を滞りなく受け取ることのできている親は全体の25%程度にすぎず、4世帯に3世帯が受け取ることができていないようです。(厚生労働省「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」参照)

民事執行法の改正で養育費の問題はどのように変わる?

これまでの問題点

離婚の際に養育費の取り決めをしていたとしても、相手の経済状況の変化や再婚などの事情の変化により、養育費の支払いが滞ることも少なくありません。そんな場合に、子どもの親である離婚相手と支払いに関して話し合うことができる関係ならば、解決を図ることができることも多いと思います。

しかし、離婚後は関係が疎遠になり、連絡を取ろうと思っても、携帯電話もつながらず、音信不通になってしまうケースも少なくありません。このような場合は、養育費の不払いを解消するため、相手財産への強制執行を検討することになります。

従前は、相手の預金や給与を差し押さえて強制執行するには、勤務先や預貯金口座の金融機関の支店名を特定する必要がありました。離婚し、ましてや強制執行する状況であれば、相手の勤務先や銀行口座を有する金融機関の支店名まで把握することは相当困難です。

また、強制執行制度に関する知識があれば、養育費の支払い義務を負う離婚相手が勤務先や口座を変えて、養育費を支払わずに逃げてしまうことができるという問題がありました。

なお、この問題を解決するため、平成15年に「財産開示手続き」が創設されています。これは、債務者を裁判所が呼び出して、債務者自身の陳述から財産に関する情報を取得する手続きです。しかし、手続きを申し立てできる人が限定的だったこと、非協力的な債務者への罰則が弱いなどといった問題点がありました。

改正で変わること

このような従来の問題点を解決するため、改正民事執行法では債務者の財産を開示する制度が実効的になるよう制度設計されています。改正のポイントは、以下の2点です。

①現行の財産開示手続きの見直し

仮執行宣言付き判決や養育費を取り決めた公正証書があれば、開示手続を請求できるように変更されました。また、罰則も見直されています。財産開示期日に債務者が裁判所に正当な理由なく出頭しない場合は、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられることになります。

②債務者以外の第三者からの情報取得手続きの新設

裁判所を通して、債務者の勤務先(給与)・不動産・預貯金等の情報を得られる制度が新設されています。この制度を利用すれば、養育費の支払い義務を負う離婚相手(債務者)が転職したり、銀行口座を移したりしていても、必要な情報を取得することができるようになります。

その結果、隠していた財産を見つけられるといった可能性があるので、養育費の不払いに対する強制執行が従前より実現しやすくなるといえます。

財産の種類別にみる情報の取得方法

改正民事執行法が施行された場合に取得できる情報及び手続について、財産の種類ごとにみていきます。

給与債権(勤務先)に関する情報

債務者の給与債権に関する情報を得られるケースは、以下に限定されています。
①生命もしくは身体の侵害による損害賠償請求権を有する場合
②養育費などの債権を有する場合

相手の給与情報を得るため、まず、地方裁判所に「財産開示手続き」の申立てをします。そして、「財産開示手続き」が実施されたのち3年以内に限って、別途「第三者からの情報開示手続き」の申立てが可能になります。

つまり、財産開示手続きをしても離婚した相手の財産状況が分からなかったときに限り、給与に関する情報開示手続きを実施できるということです。裁判所が各市町村や日本年金機構などから、債務者の住民税や年金の支払いについての情報を取得することで、勤務先や給与口座が判明することがあり、そうなれば給与債権を差し押さえることができます。

不動産に関する情報

債務者の不動産に関する情報の取得についても、給与債権と同様に「財産開示手続き」を経て申し立てることができます。不動産に関する情報取得の手続きは、給与債権とは異なり、養育費などの債権者でなくても利用することが可能です。日本では、土地や建物については不動産登記制度が採用されているので、登記されている不動産については、法務局で情報が管理されています。

裁判所は、法務局から、債務者の不動産についての情報を取得します。その結果、債務者名義の不動産があれば、当該不動産を対象として差押さえ等を行うことができます。

預貯金や株式などに関する情報

預金口座や、株式の保有状況などの情報取得については、「財産開示手続き」を経ずとも、申し立てることができます。預貯金や株式などに関する情報は、裁判所が銀行や証券会社などから情報を取得します。

判明した情報をもとにして、債権者は債務者が保有する預貯金や株式に対して強制執行できる可能性があります。

改正後の民事執行法施行はいつから?

養育費の不払いに悩む方にとって、この民事執行法の改正は、「いつから施行されるのか」という点が気になることでしょう。

施行期日は、令和2年4月1日です。

なお、法務局から不動産に関する情報を取得する手続きに関しては、例外的に「公布の日から2年を超えない範囲内において政令で定める日」から運用が開始されることになっています。

養育費不払いの時効

2020年4月1日から施行される改正民法では、一般的に消滅時効期間が短くなります。
それでは養育費の不払いは何年で時効となるか、以下、ケースに分けて解説します。

養育費について具体的内容を取り決めていない場合

この場合、養育費の支払義務は消滅時効にはかかりません。具体的な権利義務が発生していないからです。この場合、まずは相手と養育費の支払額・支払方法について協議することから始めるべきです。

但し、養育費の支払義務は原則として「請求をした時」から発生します。そのため、離婚した後に何年も経過してから、いきなり何年分も遡って養育費を請求しても、それは認められません。ですから、基本的には、離婚協議の際に、その他の離婚条件を併せて請求意思を明らかにし、離婚条件の中に養育費に関する取り決めを具体的に盛り込んでおくべきです。

養育費について具体的内容を取り決めていた場合

この場合、5年の消滅時効にかかります(※1)。

※1 第166条(債権等の消滅時効)改正後
1項 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
2項 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。
3項 前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

なお、この「5年」という時効期間は、民法の時効制度改正の前後で異なりません。
ただし、養育費の取り決めについて、それが判決や調停・審判等の裁判手続により決められたものである場合には、養育費の時効期間は「10年」となります(※2)。

※2 第169条(判決で確定した権利の消滅時効)改正後
1項 確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。
2項 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。

以下のように理解すれば、分かりやすいです。
・離婚協議書や公正証書で取り決めた場合
⇒ 5年

・訴訟や調停、審判で定められた場合
⇒・決定時に確定している部分は、10年
・決定時に未確定の部分は、5年

養育費不払いの罰則は?刑事罰・懲役?

養育費が不払いであることから、直ちに、何らかの罰を課せられることはありません。
但し、民事執行法が改正されたことにより、養育費の支払義務者が財産開示手続において、財産の開示を拒否したり、虚偽の申告をしたりしたときには、それに対する制裁が強化されました。

制裁は、従前の規定では「30万円以下の過料」でした。「過料」は、あくまで行政罰であって刑罰ではないので、前科になりません。仮に過料が払われないとき、当局が強制的に徴収をすることはあっても、身体拘束されることはありませんでした。

令和2年4月1日施行改正民事執行法では、「6月以下の懲役または50万円以下の罰金」の刑罰になります。

文言上、一応は懲役の可能性もありますし、罰金を払わないときには、労働で支払わせる「労役場留置」という身体拘束もあって、前科となりますので、間接的に養育費の円滑な支払が促される効果も一定程度は期待できるところです。

養育費の支払いを確実に受けるためにすべきこと

今回の民事執行法の改正により、養育費の支払義務がある離婚相手の財産情報を、裁判所を通して取得することが可能になります。

しかし、そもそも養育費の取り決め(合意形成)がなされていなければ、制度を利用できない可能性があるので、その点は注意が必要です。たとえば、口頭で取り決めただけ、自分たちで作成した文書があるのみといった場合には、財産開示手続きの申立てをするための条件を満たさないため、裁判所を介して相手の財産情報を取得することができません。

今回の改正により、財産開示手続きの申立てができる条件のハードルが下げられました。判決や調停で養育費に関して取り決めした場合だけでなく、公正証書で養育費を取り決めた場合にも、財産開示手続きの申立てをすることが可能になります。

そのため、離婚後の養育費の不払いに対応できるよう、父母双方で合意できた場合でも、「公正証書」で取り決めておくことが重要といえます。家庭裁判所の調停で取り決めた場合、取り決めを記した「調停調書」で財産開示手続きを申し立てることができます。

まとめ

本稿は、養育費不払い問題の法改正について解説しました。
民事執行法の改正によって、離婚相手が養育費を支払わない場合、裁判所を通して相手の財産情報を得ることができるように変わります。養育費の不払いに悩む方にとっては朗報ですが、このような制度を利用するにあたって、予め、然るべきタイミングで養育費の取り決めを公正証書など行っておくことが大切です。

離婚の際、離婚の成立をいそぐあまり、養育費の取り決めがしっかりとなされないまま、離婚してしまうケースも少なくありません。しかし、養育費の取り決めをしておかなければ、不払いがあってもその後の対応が大変困難となります。

なお、相手と話し合える状況ではない場合、弁護士に相談するのも得策です。弁護士なら、あなたの代理人として相手と交渉することが可能なので、直接の関わりをもたずに養育費の取り決めを確実に行うことができます。

もし不払いがあった場合、泣き寝入りせず、一度弁護士へ相談することをおすすめします。当事務所では、養育費のことを含む離婚問題や、養育費の不払い問題の解決に向けて対応していますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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