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2020.4.21.

相続法の改正内容9個を解説!背景・条文・施行日はいつから?

民法では、誰が相続人となり、何が遺産にあたり、被相続人の権利義務がどのように受け継がれるかなど、相続の基本的なルール(相続法)が定められています。

相続法は1980年に改正されたのち、これまで大きな改正は行われていませんでしたが、約40年ぶりに大きな見直しが行われました。

相続法の改正内容は?

1. 「配偶者居住権」の創設
2. 持戻し免除の意思表示の指定規定
3. 相続預金の仮払い制度の創設
4. 自筆証書遺言の方式の緩和
5. 自筆証書遺言の法務局での保管制度
6. 遺留分減殺請求権の金銭債権化
7. 権利の承継に関する見直し
8. 義務の承継に関する見直し
9. 「特別寄与料」の請求が可能

相続法の改正の背景は?

2018年7月6日に、改正相続法(「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」)が成立し、同年7月13日に公布されました。 そして、本日令和元年7月1日に改正相続法が施行されました。

相続法が改正された背景には、高齢化の進行という社会現象があります。今後さらに高齢化が進んで、必然的に多くの「相続」が発生することが見込まれます。そして、その相続の場面で、「配偶者に先立たれた高齢者のその後の生活への配慮」をしながら、「遺言書の利用を促進することにより相続争いを予防する」等のために、今回の法改正がなされました。

今回の改正は、これまでの相続法の内容をガラリと変えるものです。今回は、改正された点のうち、注目すべきものを見てみましょう。

改正内容が適用される施行日(法律の効力発生日)は?

1. 「配偶者居住権」の創設 (2020年4月1日)
2. 持戻し免除の意思表示の推定 (2019年7月1日)
3. 相続預金の仮払い制度の創設 (2019年7月1日)
4. 自筆証書遺言の方式の緩和 (2019年1月13日)
5. 自筆証書遺言の法務局での保管制度 (2020年7月10日)
6. 遺留分減殺請求権の金銭債権化 (2019年7月1日)
7. 権利の承継に関する見直し (2019年7月1日)
8. 義務の承継に関する見直し (2019年7月1日)
9. 「特別寄与料」の請求が可能 (2019年7月1日)

それぞれの施行日は異なりますので、この点は注意が必要です。

相続法の改正内容9個を解説

1. 「配偶者居住権」の創設

◯条文:第1028条(配偶者居住権)1
「被相続人の配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物の全部について無償で使用及び収益をする権利(「配偶者居住権」)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。」
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。

◯施行日
2020年4月1日

◯内容
配偶者居住権とは、配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に住んでいた場合に、終身又は一定期間、その建物を無償で使用することができる権利です。

これは建物についての権利を「負担付き所有権」と「配偶者居住権」に分けて、遺産分割の際などに、配偶者が「配偶者居住権」を取得し、配偶者以外の相続人が「負担付き所有権」を取得することができるようにしたものです。

配偶者居住権は、自宅に住み続けられる権利ですが、完全な所有権とは異なって、他人に売ったり自由に貸したりすることができない分だけ、評価額を低く抑えることができます。そのため、配偶者はこれまで住んでいた自宅に住み続けながら、遺産のうちの預貯金などの財産も多く受け取ることができるようになり、配偶者のその後の生活の安定を図ることができます。

2. 持戻し免除の意思表示の推定

◯条文:第903条4項
「婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項(※)の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。」

※903条1項は、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前3条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」という、特別受益者の相続分についての“持戻し計算”の規定です。

◯施行日
2019年7月1日

◯内容
従前は、各相続人の相続分を算定するにあたっては、遺贈及び一定の要件を満たした生前贈与(以下、「贈与等」)については、特別受益として持戻し計算が行われることになるため(903条1項)、結局は、贈与等を受けた配偶者の取得分は、贈与等を受けなかった場合と変わらないことになります。ただし、被相続人が特別受益の持戻し免除の意思表示をした場合には、贈与等を受けた配偶者はより多くの財産を取得することができることになります(903条3項)。

夫婦間における居住用不動産の贈与等は、配偶者の死後の生活保障のために行われることが一般的であり、そもそも贈与という認識自体が薄い場合も多いことから、贈与等を行った者にとって、自らの死後、その配偶者が他の相続人から特別受益による持戻し計算を主張されることを予期していないことが通常と思われます。

そのため、新民法903条4項において、①婚姻期間20年以上、②居住用不動産の贈与等という要件を満たす場合には、配偶者の生活保障・贈与者の合理的意思解釈の観点から、持戻し免除の意思表示があったものと推定する規定が設けられました。従前の規定ならば、被相続人に持戻し免除の明確な意思表示がない場合、贈与等を受けた配偶者は、被相続人に黙示の意思表示があったことを主張・立証する必要がありましたが、903条4項により、主張・立証責任が他の相続人に転換されることになりました。

3. 相続預金の仮払い制度の創設

◯条文:第909条の2
「各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。」

◯施行日
2019年7月1日

◯内容
平成28年、最高裁は、「共同相続された預貯金債権は、当然分割されずに、遺産分割の対象となる」との判断を示しました。このため、遺産分割前に相続預金の払戻しを受けるには、相続人全員の合意を要することになりました。

しかし、被扶養者の生活費、葬儀費用、相続債務の弁済など、緊急に相続預金を払い戻す必要が生じる場合があることから、遺産分割前であっても、相続人が単独で払戻しを受けることのできる方策の整備が検討されることになりました。

この点、遺産分割の審判前の保全処分として、相続預金の一部を相続人に仮に取得させる仮処分を家庭裁判所に求めることは従前からできましたが(家事事件手続法200条2項)、常に家庭裁判所への申立てを要するとなると、相続人の負担が大きいところがありました。従って、今回の改正では、その負担を軽減するため、一定限度まで、相続人が裁判所の関与なく単独で金融機関に対して払戻しを求めることができる制度が新設されました。

4. 自筆証書遺言の方式の緩和

◯条文:第968条
1項 自筆証書遺言によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2項 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全文又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書に因らない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3項 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

◯施行日
2019年1月13日

◯内容
改正前の民法968条では全文自書が必要でした。全文の自署を求める理由としては、「筆跡によって本人が書いたものであることを判定でき、それ自体で遺言が遺言者の真意に出たものであることを保障することができるから」(最高裁 昭和62年10月8日)とされています。

そのため、不動産を遺言に記載するとき、土地であれば所在、地番、地目、地積を記載し、建物であれば所在、家屋番号、種類、構造、床面積等の情報を書くのが一般的で、登記情報を確認して転記するのですが、手書きではかなり大変でした。

今回の改正で、自筆証書遺言に添付する遺産「目録の自署が不要」になり、遺産の一覧をワープロで作成することができるようになりました。(ただし、目録の各ページに署名捺印が必要です。)以下は、参考例です。

離遺産目録

1 土地
所在 〇〇市○○区○○丁目
地番 ○○番○
地目 宅地
地積 150平方メートル


2 建物
所在 〇〇市○○区○○丁目
家屋番号 ○○番○
種類 居宅
構造 木造瓦葺2階建
床面積 1階70平方メートル
2階50平方メートル


3 預貯金
○○銀行○○支店 普通預金 口座番号○○○○○○○

       氏名         印

5. 自筆証書遺言の法務局での保管制度

◯根拠法令
「法務局における遺言書の保管等に関する法律」第1条から第18条

◯施行日
2020年7月10日

◯内容
自筆証書による遺言は、自宅で保管されることが多く、せっかく作成しても紛失したり、捨てられてしまったり、相続人によって遺言が隠匿・改ざんされてしまったりするおそれがある等の問題がありました。そこで、こうした問題によって相続をめぐる紛争が生じることを防止して、自筆証書遺言をより利用しやすくし、相続手続を円滑化するために、法務局で自筆証書遺言を保管する制度が創設されました。

保管の申請の対象となるのは、民法968条の自筆証書によってした遺言(自筆証書遺言)に係る遺言書のみです(第1条)。そして、遺言書の保管に関する事務は、法務大臣の指定する法務局(遺言書保管所)において、遺言書保管官が取り扱います(第2条、第3条)。

保管の申請がされた遺言書は、遺言書保管官が、遺言書保管所の施設内において原本を保管するとともに、その画像情報等の遺言書に係る情報を管理することとなります(第6条第1項、第7条第1項)。

なお、遺言者は保管されている遺言書について、その閲覧を請求することができ、また遺言書の保管の申請を撤回することができます(第6条、第8条)。保管の申請が撤回されると、遺言書保管官は、遺言者に遺言書を返還するとともに遺言書に係る情報を消去します(第8条第4項)。なお、遺言者の生存中、遺言者以外の方は遺言書の閲覧等を行うことはできません。

6. 遺留分減殺請求権の金銭債権化

◯条文:第1046条
1項 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

2項 遺留分侵害額は、第千四百十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条のきていにより遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

◯施行日
2019年7月1日

◯内容
改正前は、遺留分減殺請求権を行使することにより当然に物権的効果が生じるとするのが通説で、実務上も一般的にそのように理解されていました。このため、遺留分減殺請求の結果、遺贈又は贈与の目的財産は、受遺者等と遺留分権利者との共有状態になることがありました。しかし、このような結果は、円滑な事業承継を困難にするものであり、また、共有関係の解消をめぐって新たな紛争を生じさせることになるとの指摘がなされていました。

そこで、改正法では、遺留分減殺請求権を行使することにより当然に物権的効果が生ずるという従来の規律を改め、遺留分権利者は、受遺者等に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができることとしました。

他方で、遺留分に関する権利行使の効果を金銭債権の発生と改めると、金銭請求を受けた受遺者等が直ちに金銭を準備することができず不利益を被る可能性が有り得ます。そこで、そのような状況を回避するため、第1047条5項において、「裁判所は、受遺者又受贈者の請求により、負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。」との制度が採用されました。

7. 権利の承継に関する見直し

◯条文:第899条の2
1項 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

2項 前項の権利が債権である場合において、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

◯施行日
2019年7月1日

◯内容
遺言のある場合、現行判例法理によれば、遺言により法定相続分とは異なる権利の承継がされた場合、対抗要件なくしてこれを第三者に対抗することができるとされています(最判平成14年6月10日)。

そのため、遺言のある場合は、ない場合に比べて、相続債権者や被相続人の債務者の法的地位が不安定なものになりますが、このような帰結は、相続人の地位を包括承継するという相続の法的性質からすれば、必ずしも合理的ではありません。

また、遺言の有無という第三者の知り得ない事情によって個別の取引の安全が害されるおそれがあるほか、実体的な権利と公示の不一致が生ずる場面が多く存在することになり、特に公的な公示制度である不動産登記制度への信頼を害するおそれがあります。

そこで、今回の見直しでは、上記の問題点を考慮して、相続による権利の承継についても、対抗要件主義が適用されることとなりました。

8. 義務の承継に関する見直し

◯条文:第902条の2
被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の1人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。

◯施行日
2019年7月1日

◯内容
判例上(最判平成21年3月24日)、相続人は、相続債務についても遺言で相続分を指定できるとの考え方が採られています。もっとも、相続分の指定は、相続債権者の関与なしに行われるものであることから、上記判例は、「遺言による相続債務についての相続分の指定は、相続債権者に対してその効力が及ばない。」として、相続債権者の利益保護が図られています。

本規定は、この判例法理を明文化したもので、遺言により相続債務について相続分が指定された場合であっても、相続債権者は各共同相続人に対し、その法定相続分に応じた債務の履行を請求することができるとされました。

9. 「特別寄与料」の請求が可能

◯条文:第1050条(特別寄与者)
1項 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。

2項 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、又は相続開始の時から一年を経過したときは、この限りでない。

3項 前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。

4項 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。

5項 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第九百条から第九百二条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。

◯施行日
2019年7月1日

◯内容
現行法上、寄与分は相続人にのみ認められるものであることから、相続人の配偶者などの相続人以外の者が、相続人に対して無償で療養看護などをし、遺産の形成又は維持に多大な貢献をしている場合であっても、その分配を受けることができませんでした。これでは現実に療養看護などを担った親族の貢献に報いることができず、実質的公平に反するとの指摘がありました。

例えば、相続人の妻が、被相続人(夫の父)の療養看護などに勤めていた場合であっても、遺産分割手続において、相続人ではない妻が寄与分の主張をしたり、何らかの財産の分配を求めたりすることはできませんでした。そこで「相続人以外の親族」についても一定の条件の下、相続人に対して金銭請求を求めることができるようにすべく、「特別の寄与」の規定が新設されました。「一定の条件」とは、以下の内容をいいます。

①被相続人の親族であること
親族とは、「6等親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族」(民法725条)を指します。
②療養看護その他の労務の提供をしたこと(「療養看護等」)
食事・風呂など生活面での補助全般、通院先への付添い、入院先への見舞、雑用などの事実行為が対象となります。
③無償性
上記の療養看護等が無償でなされていたことが必要となります。
④被相続人の財産の維持又は増加が認められること
各相続人に応分の負担を求めることになるため、被相続人の財産が増加したか、少なくとも維持されたことが必要となります。

手続としては、まずは当事者間で協議し、それが調わないときには、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。ただし、「相続の開始及び相続人を知った時から6か月以内、相続開始の時から1年以内」という期間制限がありますので、この点には注意が必要です。

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