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2020.4.15.

離婚後の未払婚姻費用の請求は可能?拒否された場合・時効は?

最近、最高裁判所が「婚姻費用調停申立後に離婚した場合であっても、未払の婚姻費用を請求することができるか」という問題について判断を示しました(最決令和2年1月23日、「本件決定」)。

本件は、妻が夫に対し婚姻費用分担の調停を申し立てた2か月後、従前より行われていた同一当事者間の離婚調停が成立し(財産分与や清算条項は定められませんでした。)、他方、婚姻費用分担調停は合意ができずに審判に移行したというものです。

問題の所在と最高裁判所の判断

婚姻費用は、婚姻関係にある夫婦が生活保持義務(双方同等の生活レベルを保持する義務)に基づいて互いに負担すべき費用であり、民法上、夫婦の一方は、他方の配偶者に対して、婚姻費用の分担を請求できるとされています。

婚姻費用には上記のような性質があるため、「婚姻費用を支払うよう調停を申し立てた後、支払がされないうちにその当事者が離婚した場合は、もはや婚姻関係にないのであるから、過去の未払婚姻費用を支払わせることはできないのではないか」という問題がありました。

実際、札幌高等裁判所(原審)はそのような理由から、婚姻費用の請求を却下しました。

これに対して最高裁判所は、「婚姻費用の審判申立ての後に当事者が離婚したとしても、婚姻費用の請求をすることができる」という判断を示して、さらに審理を尽くさせるために、札幌高等裁判所に差し戻しました。

その判断の理由として、婚姻費用分担は婚姻を前提としたものではあるものの、「婚姻中に発生した未払婚姻費用についてその後の離婚を理由に実体法上の権利が消滅するとする理由がないこと」、「家庭裁判所も過去にさかのぼって婚姻費用分担額を決定できること」、「そのことは仮に未払婚姻費用を財産分与で清算できる場合であっても変わらないこと」などが挙げられています。

婚姻費用の請求が拒否された場合

婚姻費用を請求するタイミングは、「婚姻中で、別居が開始した時」と考えておけばよいと思います。請求方法としては、まずは内容証明郵便により、相手配偶者に「婚姻費用を支払ってほしい」という請求意思を明らかにすることが大事です。

請求の意思を示したにもかかわらず、相手配偶者から支払いを拒絶された場合(或いは、何の回答も得られない場合)には、すぐに婚姻費用の調停を申し立てるのが良いと思います。

未払婚姻費用の時効

「時効」の問題も考えておかなければなりません。時効とは、簡単にいうと、「権利行使が可能な時から一定期間が経過すると、その権利を行使できなくなる」というものです。

合意形成されていたケース

別居の際に、婚姻費用の額について、当事者間で協議書を作成したり、公正証書を作成したりして合意形成された場合には、「5年」の消滅時効が適用されます(改正後民法166条)。

なお、改正前においても、養育費や婚姻費用等の扶養給付に関する権利は“定期給付債権”(改正前民法169条)として、「5年」の消滅時効にかかるとされていたので、改正前後で変わるところはありません。

合意形成されていなかったケース

この場合、養育費も婚姻費用も親族関係の存在それ自体から発生する権利なので、時効の適用はないとされています。時効の問題ではなく、「支払始期」はいつかという問題になります。

この場合、まずは当事者間で、どこまで遡って支払ってもらうかを決めることになります。当事者間で決めることができなければ、調停又は審判で決められることになります。なお、審判で決められる場合、裁判所の傾向としては、「婚姻費用を請求する意思を明らかにした時点を基本としつつ、支払義務を負う配偶者の現実の支払能力等の事情を考慮して決められる」ことが多いように思います。

【改正後の民法の時効に関する条文】
第166条 (債権等の消滅時効)
1項 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
2項 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。
3項 前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

第168条 (定期金債権の消滅時効)
1項 定期金の債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から十年間行使しないとき。
二 前号に規定する各債権を行使することができる時から二十年間行使しないとき。
2項 定期金の債権者は、時効の更新の証拠を得るため、いつでも、その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。

第169条 (判決で確定した権利の消滅時効)
1項 確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。
2項 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。

まとめ

本件決定によって、離婚後も過去の婚姻費用分担を請求することができることが明らかとなりました。但し、このことは未払婚姻費用を別途財産分与において考慮することを否定するものではありません。

上記の最高裁の判断は「婚姻費用が決まらない或いは支払われないうちに離婚した場合」に妥当するルールです。実際は、別居後、できるだけ早期に婚姻費用分担の調停を申し立てた方がよいことには変わりありません。

別居と離婚を考えているが生活費が心配である、相手方が婚姻費用を支払ってくれない、などでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

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