田中・大村法律事務所

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2019.10.16.

【労働問題事例2】未払い残業代等を請求されないための合意書面の獲得

相談内容・前提状況

依頼者(Aさん)は、足場組立解体業を営む個人事業者です。数年前に独立・開業して仕事も、収入も、従業員も、順調に増えてきていました。

あるとき、一人の従業員が辞めることになり、その従業員から、「これまでもらっていない残業代はもらえるのか」と聞かれました。その従業員は、会社の車で自損事故を起こしたり、お金が足りないときに会社からお金を借りていたりしていました。そのため、Aさんとしては、むしろ会社のほうが色々と迷惑をかけられているし、残業代はすべて払っている認識でした。「これ以上支払う残業代はない」と対応しました。

しかし、その従業員は会社を退職する際に、弁護士に依頼して、残業代を請求してきました。(※その従業員の労働時間を正確に計算すれば、確かに、相応の時間外労働が計上される状況でした。)

このような状況で、Aさんは当事務所に相談に来られました。

解決までの道のり

まずは、その従業員からの残業代請求に対し交渉することになりました。結果だけ言いますと、100万円程度の解決金を支払う、という内容で和解しました。

Aさんとしては、その従業員には貸していたお金もあるし、そもそも給与を前渡ししていたこともあるし、他にも色々と迷惑をかけられた部分もあるので、なかなか納得しがたい解決内容でした。

Aさんの不満として、「相殺」(そうさい)できないのか、との思いがありました。しかし、「賃金」(=給与)は労働基準法により、原則として、相殺されないものとして保護されています。これを「賃金全額払いの原則」といいます。難しい言い方をすれば、この賃金の全額払いの原則には、相殺禁止の趣旨も含まれます。

簡単に言うと、「給与は労働者の生活を支える重要な権利だから、別の債務と差し引きすることは許されない。(まずは)全額渡しましょう。」、ということです。

そういうわけで、仕方なく和解によって解決しました。大事なのは、そのあと、です。Aさんとしては、その辞める従業員が、「自分は残業代を請求したらもらえた」などと、別の在籍中の従業員に言いまわることを心配しました。経営者としては、大事な視点だと思います。

解決のポイント

先に述べた通り、賃金には「全額払いの原則」があります。

ただ、「原則」には必ずといっていいほど、「例外」があります。つまり、一定の条件を満たせば、賃金から別の債務分を差し引きすること、相殺(そうさい)することは可能です。

裁判上、以下のいずれかの場合であれば、適法に相殺ができます。
①過払い賃金を清算するための調整的相殺であって、時期・方法・金額などから、労働者の経済生活の安定を脅かすおそれがない場合

②労働者の同意に基づく相殺であって、労働者の自由な意思に基づくと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合

③解雇無効期間中の賃金からの中間収入控除について、平均賃金の6割を超える部分の相殺をする場合

Aさんの心配事は、他の従業員たちからも、「自分も未払いの残業代を請求する」と言われるのではないか、ということです。Aさんのケースでは、上記条件のうち、「②」をクリアすれば、例外的に、相殺できることになります。

そこで、当事務所では、在籍中の各従業員から、「前払金確認書 兼 控除同意書」や、「賃金債権不存在の同意書」という書類を取り付けました。つまり、“これまで未払い残業代はないことを確認しつつ、仮に未払い残業代が発生しているとしても、それと給与の前渡金とを相殺することに同意します”という書面を、予めもらっておいた、ということです。

これにより、在籍中の従業員から立て続けに残業代等を請求される最悪の事態を免れることができました。

問題の大小にかかわらず、社内に生じた「一つ」の問題が派生して損害が拡大していかないかとの視点は、経営上、とても大事です。会社・事業に邁進しながら、同時にそのような広い視野を持つことは、なかなか難しいことかもしれません。

当事務所では、そのような経営者の方のリーガルサポートができるような顧問契約を準備していますので、経営者の方は、是非一度、ご相談ください。

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