離婚協議書の書き方・作り方[テンプレート付き]
離婚には3種類あります。協議離婚、調停離婚、裁判離婚ですが、実際の離婚の多くが、夫婦間で話し合って離婚をする協議離婚です。
夫婦が離婚するときには、これまで築き上げてきた婚姻生活をどのように解消するかについて、取り決めをすることが多いでしょう。なんとなく口約束で大体のことは決めたからと、勢いで協議離婚をしてしまう夫婦もいるかもしれません。
しかし、離婚後、支払われるはずであったお金が払われなかったり、養育費を一方的に減額されたりしてトラブルになることもあります。
このような状況を極力避ける方法として、約束したことを「離婚協議書」にする方法があります。離婚協議書について、それがどのようなものか、どのように作成するのか、詳しく見ていきましょう。
離婚協議書とは
協議離婚の際の条件や夫婦間の約束ごとを書面化したものです。
きちんと約束をしていればわざわざ書面にしなくてもよいと思われる方もいるかもしれませんが、書面化しておくことにより、合意の内容が明確となり、双方に誤解が生じにくくなるでしょう。また、慰謝料や、養育費も、今は必ず支払われるだろうと思っていても、支払う側の再婚や、新しい子の誕生、リストラや病気などの事情により、支払いが困難になることもあるかもしれません。
そのような場合に、支払いの前提となる約束自体が争われることになれば、“口約束”では証拠がないことになります。きちんと書面にすることには、とても大きな意味があるのです。
離婚協議書に記載すべきこと
離婚協議書に記載すべきなのは、夫婦で協議離婚の際に約束した内容です。離婚を合意した旨の記載のほか、金銭の支払いを伴うものや、子どもとの面会など、後のトラブルになりそうなことを記載するのが一般的です。
以下に、離婚協議書に記載すべきことがらのうち、重要なものについて説明をしていきます。
(1)「離婚を合意した」旨の記載
まずは、離婚協議書を作成する前提として、離婚の合意をしたことを冒頭に記載するのが一般的です。どちらが離婚の届けを出すのかなども記載されることがあります。
(2)親権者の指定
協議離婚の際に未成年の子がいる場合には、親権者を必ずどちら一方に定めなくてはなりません。親権者は、通常、子供の財産の管理および身上の監護をすることになります。
しかし、子供の財産の管理は、一方が「親権者」として行い、子供の身の回りの世話はもう一方が「監護権者」として行うというように、親権者と監護権者を分けることも不可能ではありません。このような場合には、特にトラブルが生じた場合に備えて離婚協議書に親権者と監護権者を分ける旨の合意があった旨を明記しておくべきといえるでしょう。
(3)養育費
養育費とは、子どもが自立するまで育てるのに必要な費用のことをいいます。
離婚により子どもを監護しなくなる親が“子どもに対して支払う”金銭のことで、離婚した配偶者に支払う金銭ではないことに注意が必要です。
民法766条1項には、子の監護に要する費用の分担については、離婚の際にその協議で定める旨が規定されています。養育費には、衣食住にかかる費用、教育費、医療費、娯楽費などの費用が含まれます。
養育費について協議が整った場合には、離婚協議書に明確に記載するべきです。
具体的には、そもそも養育費を支払うか否か、支払う場合の金額(月額)、支払う期間(始期と終期)、子どもが成長する中で必要となる特別の費用についても、きちんと記載しなくてはトラブルの種になります。なお、離婚時に子どもが幼少であった場合、そのときには想定できない私学への進学や、留学、大学院への進学のほか、子どもに不慮の病気や怪我があることもありますので、できるだけこれらの点にも配慮した記載をなすことが必要です。
また、子を監護する側が再婚して新しい配偶者ができた場合の規定なども、トラブル回避のためには有用な記載といえるでしょう。
(4)財産分与
財産分与とは、離婚の際に、婚姻共同生活中に夫婦で築いた財産(共有財産)を清算することです。民法768条1項には、「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。」旨が規定されています。なお、財産分与の請求は「離婚後2年以内」にするようにしましょう。
財産分与の対象となる財産は、婚姻生活中に夫婦で築いた財産であり、これを「共有財産」といいます。ある財産が「共有財産か否か」は、“財産がどちらの名義になっているか”だけでは決まらず、名義も参考にしつつ、“実質的に判断”します。
たとえば、婚姻生活中に購入した夫婦の一方の名義になっている車や不動産,婚姻生活中の預貯金、有価証券,保険解約返戻金,退職金などは、共有財産として財産分与の対象となることが一般的です。
なお,財産分与の対象となる財産は,原則として「別居時」を基準に確定されますので,別居した後に取得された財産については,財産分与の対象にはならないと考えられています。
他方、財産分与の対象にはならない財産もあります。これを「特有財産」といいます。
特有財産とは,“婚姻前から一方が有していた財産”や、“婚姻中であっても夫婦の協力とは無関係に取得した財産”を指します。たとえば,“独身時代に貯めた定期預金”や、“婚姻中に生じた相続によって得た不動産”などです。
財産分与について、離婚協議書で特に気を配るべき場合としては、不動産を財産分与する場合です。
対象不動産を特定するために必要な情報をきちんと記載したうえで、不動産の名義はどのように変更するのか、変更の際の登記の手数料はどちらが負担するのか、ローンが残っている場合にローンはどちらが払うのかなどです。
なお、ローンの支払義務者を変更する場合、債権者である金融機関に承諾を得ることが必要です。これを夫婦間の合意だけで変更して離婚協議書に記載したとしても、その記載は、“債権者との関係では有効ではない”ことに注意が必要です。
(5)慰謝料
慰謝料とは、不法行為により精神的苦痛を受けた場合に、その苦痛を与えた側が支払うべき賠償金のことを指します。
離婚の際の慰謝料としては、不貞行為やDVなどがあった場合には、配偶者のそれらの行為によって精神的苦痛を受けたものとして、慰謝料という名目で、離婚協議書に記載することになります。
慰謝料について記載すべき内容としては、そもそも慰謝料を支払うのかどうか、払うとすればその金額はいくらか、支払期日はいつか、一括払いか・分割払いか、どのような方法で支払うのかなどです。
慰謝料のような“金銭債務の履行”については、支払額のみならず支払方法やその時期などについてきちんと決めておくことがトラブルを回避するために重要です。
また、分割払いの場合、途中で支払いが滞る事態に備えて、「期限の利益喪失約款」を定めることも可能です。「期限の利益喪失約款」とは、例えば、1回でも支払いを怠った場合には、「期限の利益」すなわち“分割払いにしてもらい、支払期限を先に設定してもらっているという利益”を喪失し、直ちに残額を一括で支払わねばならないという約束のことです。
(6)面会交流
面会交流とは、離婚後又は別居中に子どもを養育・監護していない方の親が子どもと面会等を行うことです。
離婚の際に、面会交流についての条件等を定める場合には、親の意向を前面に押し出すのではなく、子供の意思を第一に尊重すべきです。
面会交流については、養育費を支払っている側が、金銭の支払いをしているにも関わらず、子どもと会えないことで不満を募らせるケースがあります。ほかにも、これまで暮らしてきた子どもと会える・会えないの話ですから、感情的な問題に発展するケースもあります。
そのため、離婚協議書にきちんと記載することが必要です。面会の具体的日時・場所等について、子どもの意向や負担に配慮しながら協議することが必要です。事情があって、面会に制限を設ける場合には、その制限についてもきちんと規定することが必要です。
たとえば、面会交流の時間帯や、宿泊の可否、面会の間の連絡方法、面会に誰かを同伴することの可否などを明確に規定することが重要となるでしょう。
(7)年金分割
年金分割とは、“婚姻期間中に支払った保険料は夫婦が共同で納付したもの”と考えて、将来の厚生年金・共済年金の額を計算するものです。
妻が専業主婦の場合、夫が払った保険料の一部を妻が払ったものと見立てて、将来に受給する年金額を計算することになります。
年金分割は、「年金事務所(日本年金機構)へ分割改定請求」をする必要があります。なお、その際、平成20年4月1日以前の分まで分割請求する場合には分割割合を定めた合意書を添付することが必要となります。これに対して、「平成20年4月1日以降の分の分割については自動的に2分の1の割合での分割が可能」となっています。
このように、年金分割については夫婦で協議をするだけでは十分ではないことに注意が必要です。
(8)清算条項
せっかく離婚協議書を作成しても、離婚が成立した後に、離婚協議書に記載していないことがらに関して、色々と理由をつけて金銭を請求されたり、支払いを拒まれたりするのでは意味がありません。
そこで、離婚協議書には、「本協議で定めるもののほかは、名義の如何を問わず金銭を請求しないこととする」などの“清算条項”の記載がされることが一般的です。ただし、清算条項を入れる場合には、本当に記載されたことがら以外に請求すべき金銭がないかを慎重に検討しなければなりません。
(9)その他
その他のことがらを、離婚協議書に記載しておく場合もあります。たとえば、お互いに、離婚に至った経緯・理由を他人に言わないことや、離婚協議書の内容を他人に漏らさないことなどです。
離婚協議書の雛形
離婚協議書の雛形テンプレートを見てみましょう。
甲 雛形○子
乙 雛形○男
第1条(離婚の合意等)
1 甲及び乙は、協議により離婚(以下、「本件離婚」という。)することに合意する。
2 乙は、甲に対し、乙の署名・押印のある離婚届を交付し、甲は、当該離婚届に必要事項を記載し、甲の署名・押印のうえ、速やかに役所に提出する。
第2条(親権等)
甲及び乙は、2人の間に生まれた未成年の子である雛形○え(平成●年●月●日生)、雛形○よ(平成●年●月●日生)(以下、「未成年者ら」という。)の親権者を甲と定め、甲において未成年者らを監護養育する。
第3条(養育費等)
1 乙は、甲に対し、未成年者らの養育費として、平成●年●月から未成年者らがそれぞれ満20歳に達する日の属する月まで、毎月末日限り、1人当たり月額●円を甲の指定する口座に振り込んで支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。
2 未成年者らの進学、事故、病気等により特別の費用が発生する場合には、その費用負担について、別途、甲及び乙が協議する。
第4条(面会交流)
1 甲は、乙と未成年者らが月に1回程度、面会交流することを認める。
2 面会交流の日程、場所、時間等については、未成年者らの意思を尊重し、甲及び乙がその都度、協議して定める。
第5条(慰謝料)
乙は、甲に対し、慰謝料として、金●円を支払う義務があることを認め、平成●年●月●日限り、同金員を甲の指定する口座に振り込んで支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。
第6条(財産分与)
乙は、甲に対し、本件離婚に伴う財産分与として、金●円を支払う義務があることを認め、平成●年●月●日限り、同金員を甲の指定する口座に振り込んで支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。
第7条(年金分割)
1 甲及び乙は、本件離婚に際し、厚生労働大臣に対し、対象期間標準報酬総額の改定又は決定の請求をすること及び請求すべき按分割合を0.5とすることに合意する。
2 甲は、速やかに、厚生労働大臣に対し、前項の請求をする。
第8条(清算条項)
甲及び乙は、本件離婚に関し、本書に定めるものの他、何らの債権債務のないことを確認し、今後、財産分与、慰謝料等名目の如何を問わず、互いに何らの財産上の請求をしない。
第9条(公正証書の作成)
甲及び乙は、本件離婚に際し、本合意書に定める合意内容について、強制執行認諾文言付公正証書を作成することに合意する。公正証書の作成費用は、甲乙が1:1の割合で按分負担する。
甲及び乙は、本合意の成立を証するため、本合意書を2通作成し、各々1通を保管する。
平成●年●月●日
まとめ
離婚協議書の必要性や、記載すべき内容について、ご理解いただけたでしょうか。夫婦が離婚するに際しては、決めておくべきことが想像以上に多いと驚いた方もいるのではないでしょうか。また、そこに記載すべき具体的内容は、夫婦だけではよくわからないと感じられた方もいるでしょう。
離婚をして、それぞれが新たな人生を歩むことを決意したのですから、その後もトラブルが続くのは本意ではないと思います。少しでも不安・不明な点があれば、お気軽にご相談ください。