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2017.6.3.

交通事故の後遺症逸失利益とは

交通事故における損害は、大きく分類すれば、「財産的損害」と「精神的損害(慰謝料)」の2つに分けられます。
そのうち「財産的損害」は、「積極損害」と「消極損害」に分けられます。

「積極損害」とは、“事故に遭ったことに伴う支出”です。例えば、「治療費、通院交通費、文書代」などです。
「消極損害」とは、“事故に遭わなければ得られたはずの経済的利益”です。具体的には、事故後の通院で会社を休んだために収入が減少した場合や(休業損害)、事故の後遺症で事故前のように稼働することができなくなり将来にわたって減収が見込まれる場合(後遺症逸失利益)です。

積極損害は実際に支出をした損害ですから、領収書などを示して計算することができます。消極損害の中でも“休業損害”は実際に休んだ日数は分かりますから、計算することが比較的容易です。

しかし、消極損害のうち“後遺症逸失利益”は、“後遺症のために将来にわたって見込まれる減収”を現時点で算出することになりますから、その計算は簡単ではなく、複雑で専門的な知識が求められます。

ここでは後遺症逸失利益の概要と計算方法、そしてよくある問題についてご紹介します。

後遺症逸失利益とは

事故を原因とした後遺症がある場合、被害者が事故前のように働けなくなると(=“労働能力の低下”)、そのために収入が将来にわたって減ることが考えられます。その減収分のことを「後遺症逸失利益」といいます。

そして、事故による後遺症が有るか否かは、「損害保険料率算出機構」という自賠責の機関が「後遺障害等級認定」をするにより決められます。(なお、その認定と異なる判断を裁判所がすることもあります。)

後遺症逸失利益の計算方法

後遺障害等級が認定された場合、後遺症逸失利益は以下のように計算します。

基礎収入 × 労働能力喪失率(※1) × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数(※2・3)

※1 労働能力喪失率とは、“後遺症により事故前と比べて何%の稼働能力を喪失したか”を示すもので、自賠責保険の後遺障害等級表が基準となります。例えば、後遺障害等級「14級」と認定された場合、労働能力喪失率は「5%」です。後遺障害等級「12級」なら労働能力喪失率「14%」です。(もっとも、個別具体的な事情により、自賠責の等級表の%よりも増減することは有り得ます。)

※2 労働能力喪失期間とは、“労働能力を喪失した状態がどのくらいの期間続くのか”です。むち打ち症の場合、14級なら3~5年程度、12級なら7~10年程度とされることが多いように思いますが、個別具体的な事情により適宜判断することになります。

※3 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数とは、“中間利息を控除”するための計算式における係数です。聞き慣れない言葉ですし、そもそも内容も一度聞いてもよく分からないかもしれません。以下、簡単に説明します。
お金は所持・保有していること自体にも価値が有ります。お金を借りると利息が付きます。それは、“借りる=現金を所持・保有できる状態=いつでも何かを買える状態”に価値があるという考え方に基づきます。後遺症逸失利益は、「将来」の見込まれる減収分を、「今(=示談時)」もらうことです。したがって、“将来に得るであろうお金を今現在に所持・保有する”ことができる以上、その分の価値(=中間利息)だけ控除されることになります。

よくある問題

後遺障害等級の認定を受けた場合、多くの事例では、等級表による労働能力喪失率(14級なら5%、12級なら14%)を乗じて、後遺症逸失利益を計算します。しかし、等級表は自賠責保険が定めた基準であり、個別具体的な事情により、等級表による労働能力喪失率で計算することが妥当でない場合もあります。

また、後遺障害等級が自賠責により認定されても、本人の職業・役職、努力等の事情によっては事故前と事故後を比較して減収がない場合があり、保険会社が後遺症逸失利益の存在自体を争ってくることも考えられます。

そのため、裁判になれば、裁判所は自賠責の等級認定を参考にしつつ、事案に応じて個々の職業・年齢等を考慮した上で、労働能力喪失率や労働能力喪失期間を決めています。

後遺症逸失利益の計算は、個別の事情を考慮した上で判断されることが多く、単純に認定を受けた後遺障害等級と、等級表どおりの労働能力喪失率をもとに算出した金額になるとは限りません。もちろん交渉段階では、相手方も後遺症逸失利益の金額を減らす方向の主張をしてきます。

まとめ

相当な後遺障害逸失利益の金額を知りたい場合には、交通事故に詳しい弁護士に相談すると良いでしょう。交通事故の解決実績が豊富な弁護士が過去に担当した事案や裁判例を参考に、具体的なアドバイスをすることができますので、お気軽にご相談ください。

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